コラム

小学生・高校生それぞれのおじいさんのランプ

『おじいさんのランプ』は、両作品とも大変示唆に富み、いつかは書かなくてはと思っていましたので、高校で定期テストがあったこともあり、この機会に書いてみようと思います。

2つの『おじいさんのランプ』

同じタイトルの作品が実は2つあります。

1つは、「原作」ともいえる新美南吉『おじいさんのランプ』です。

新美南吉は、『ごんぎつね』作者として大変有名であり、『おじいさんのランプ』も過去の広島女学院中学の入試問題として出題されました。

そして、もう1つは宇野常寛『おじいさんのランプ』という著作です。

こちらは、現代の知の在り方が、変容していく様子について新美南吉『おじいさんのランプ』を参考にしながら、論じている評論です。

一般的に、前者の『おじいさんのランプ』は小学生に読まれることが多いのに対し、後者の『おじいさんのランプ』は高校の現代文の授業で読まれることが多いようです。

したがって、この2つの『おじいさんのランプ』は記事を分けて解説してもよいのですが、他方でつながるところも多いため、一つの記事で紹介していこうと思います。

新美南吉『おじいさんのランプ』

ちなみに、こちらの新美南吉『おじいさんのランプ』は、著作権が切れていますので「青空文庫」で全文を閲覧することができます。

青空文庫:新美南吉『おじいさんのランプ』

あらすじを紹介しますと、以下のようになります。

あらすじ

巳之助という青年が文明開化ということで、その象徴のランプを売り始めます。

しかし、まもなく電灯が普及することになり、ランプは不要になります。

それに納得できなかった主人公は、最終的に区長の家に放火することを決意します。

但し、火打石でなかなか火がつかないことで、彼は古いものは役に立たないと悟ってしまいます。

そして、最終的に自分の職業が文明開化の役割をすでに終えたと分かった主人公は、ランプ屋を廃業し、本屋になってこの作品は終わります。

設問

以下は、私が実際に授業で作成した設問になります。

なお、文字数は不問ですが、多いほうがむしろ良いかもしれません。

(1)「ランプで物はよく見えるようになったが、字が読めないじゃ、まだほんとうの文明開化じゃねえ」とありますが、これはどういうことですか。説明しなさい。

(2)「巳之助は誰かを怨みたくてたまらなかった。そこで村会で議長の役をした区長さんを怨むことにした。そして区長さんを怨まねばならぬわけをいろいろ考えた。」とありますが、この部分における巳之助の気持ちを次のようにまとめました。

次の空欄に当てはまる表現を書きなさい。

「巳之助は、本当は( ア )が、( イ )ので、( ウ )気持ちになった。」

(3)「ちょうど月が出て空が明かるくなるように、巳之助の頭がこの言葉をきっかけにして明かるく晴れて来た。」とありますが、このときの巳之助の気持ちを「変化」に着目したうえで、説明しなさい。

(4)「こうして巳之助は今までのしょうばいをやめた。それから町に出て、新しいしょうばいをはじめた。本屋になったのである。」とありますが、巳之助はなぜ本屋になったのだと思いますか。本文全体を踏まえたうえで、「ランプ」「文明開化」「本」という言葉を用いて、あなたの考えを述べなさい。

考え方(ヒント)

(1)該当する本文個所は、たとえ(比喩)です。

したがって、具体化が必要になります。

主人公の考える「ほんとうの文明開化」とはなにか、「ランプで物が良く見えるようになった」こととは、どこが違うのか、ということを考える必要があります。

(2)該当する本文個所をよく読むと、主人公は2つの感情を持っていることが分かります。

つまり、無理やり自分に何かを言い聞かせています。

本音に相当する部分を(ア)に入れて、建前に相当する部分を(イ)に入れ、最後に気持ちを端的に表現する一言を(ウ)に入れるとよいです。

(3)気持ちの変化は、①変化の前の気持ち、②変化のきっかけ、③変化の後の気持ち、をこの順番に書いてまとめるとよいです。

また、たとえ(比喩)として「月が出て空が明るくなったように」とありますので、マイナスの気持ちから、何らかのきっかけを経て、プラスの気持ちに変わったことが分かります。

(4)難問(のつもり)です。

但し、指定語句がかなりのヒントになっています。

主人公は、なぜランプではなく本を売ることにしたのか。

それは、ランプにはないものが、本にはあるということを主人公は知っていたからです。

ヒントその2

(1)について

これは、「くらべる問題」です。対立関係とも言います。

本当の文明開化につながるものと、本当の文明開化につながらないものがあります。

それをくらべる文を書くことが必要になります。

例えば、「本当の文明開化は、(A)ではなく(B)だということ。」という形で書きます。

(2)について

これもまた、「くらべる問題」だといえます。対立関係です。

主人公の本音と建て前を本文から考えます。

例えば、「古い自分のしょうばいが失われるからとて、世の中の進むのにじゃましようとしたり、何の怨みもない人を怨んで火をつけようとしたのは、男として何という見苦しいざまであったことか。」がかなり参考になります。

・本音=区長さんには何の怨みもない

・建前=古い自分の商売(ランプ売り)が失われるのが怖いので、区長さんのことが怨めしくなった。

など、与えられた文の「が」(逆接)や「ので」(因果関係)が活きるようにします。

(3)について

変化の三要素、すなわち①変化の前、②変化のきっかけ、③変化の後を整理したうえで、一文にまとめる必要があります。なお、この順番に考えなくても大丈夫です。

ちなみに、以下のような内容はどうでしょうか。

・①は、「区長さんにとんでもない怨みを抱いていた」

・②は、「古いものは役に立たない」という自分の言葉

・③は、「怨みがなくなって、すっきりとした気分になった」

ちなみに、比喩の具体化の発想があると③はかなり楽になります。傍線部の内容は、明らかにマイナスからプラスへの変化を示しているので、それを読み取って答案を作ります。

例えば、「元々①だったが、②がきっかけで、③になった。」など。

 

(4)について

これもまた、「くらべる問題」、要するに対立関係です。

ただし、本文に直接の表現がないので自分で考える必要があります。

ランプ(や電灯)は、「はやりすたれるもの」であり、他方で本は「時代を超えるもの」だと主人公は考えていることを、まとめます。

本当の文明開化をもたらすのは、もちろん後者の本であると考えられます。

ちなみに、(1)で答えたことも(4)の解答作成の上で大きな助けとなります。

(1)では、「ランプで文字が見えること」と「文字が読めること」とが比べられていましたが、(4)ではもう少し大きな目線で答える必要があります。

いうまでもなく、本は文字で出来ています。そして、ランプ(や電灯)と違って、はやりすたれるものではなくて、時代を超えて文明開化を支えるものです。

主人公がランプ売りをやめたのは、ランプ売りが古い商売になったからであり、逆に考えれば本屋という商売は、物語の最初から最後までずっと必要な商売であり続けています。

例えば、冒頭では主人公は本屋で、本が注文されるところを見ていますし、その後区長さんに文字を習っています。また、最後の部分では、時が流れても本屋は存続しているようです。

これは、冒頭では文明開化の象徴として、主人公たちを魅了したランプが、物語が進むにつれて時代遅れになっていたこととは、ちょうど対照的です。

もちろん、本文全体の内容にまたがる「テーマ」をとらえることは容易ではありませんが、他方で「文脈」を「論理的」に捉えるということは、最も重要な能力であるといえます。おじいさんのランプは、起承転結がはっきりしており、それぞれの「モノ」に与えられている役割も非常に明確なので、国語の力を鍛えるには非常に適した教材だといえます。

長くなりましたが、答案の形式としては次のようなものがよいでしょう。

 

「本当の文明開化は、(A)のような(B)ではなく、(C)のような(D)によってもたらされると気が付いたから。」

 

(A)ランプや電灯

(B)はやりすたれるもの

(C)本

(D)時代を超えていくもの

宇野常寛『おじいさんのランプ』

こちらは、高校の現代文の授業でよく取り上げられる文章です。

新美南吉『おじいさんのランプ』では、普遍的なものとされた「知の在り方」についても、現代では著しい変容があるということが主題です。

設問

以下は、もし私だったらどんな作問をするのかという一例です。

(1)筆者が「いい話」と表記している部分について、

①「いい話」とは、どういう話か。説明せよ。

②「いい話」と、カギカッコで表記しているのは、なぜか。説明せよ。

(2)筆者が新美南吉『おじいさんのランプ』を要約している際に言及している、「こうした知性」とはどのような知性か。説明せよ。

(3)筆者の言う、「日本の文字文化に関して本質的なレベルで進行している社会の変革」とは、どういうものか。

以下の空欄を適切な表現で埋めよ。

今までは( ア )だったものが、( イ )が契機となって、( ウ )になったということ。

(4)筆者の考える、「現代における本の機能」として、どのようなものが求められていると考えられるか。

本文全体の内容を踏まえて、あなたの意見とその理由を述べなさい。

(5)新美南吉『おじいさんのランプ』における巳之助の書店は、現代も続いていると思うか。

それに対するあなたの考えと、理由を本文における「知の在り方」に触れながら説明しなさい。

考え方(ヒント)

(1)①ほぼ抜き出しで解ける問題ですが、内容が具体例の羅列になるよりは、多少要約したほうが印象が良いです。

(1)②カギカッコをあえてつけるということは、強調しているということです。

なぜ、筆者は「いい話」と強調したのか、それは違和感があるからだと考えられます。

(2)一見「こそあど言葉(指示語)」の言い換えに見えますが、抜き出しで答えるのは困難かと思われます。

うまく、ここまでの内容を要約する必要があります。

(3)「変革」の説明ですから、(1)今までの様子、(2)変革の契機、(3)変革の後の様子、に分けて書く必要があります。

本文全体の趣旨にかかわる重要なテーマなので、本文中何度も形を変えて繰り返されています。

(4)思考力問題の要素もありますが、他方で本文全体の趣旨を踏まえるという条件を付しました。

筆者の主張の前提である、「現代における知」とは何でしょうか。

それを踏まえて、本はどのようなメディアであることを求められているのか、考察する必要があります。

(5)最近はやりの、思考力問題(のつもり)です。

但し、無条件ではなくて、「本文における知の在り方」を踏まえて、とあります。

したがって、答案の構成としては、次のようなものが考えられます。

「本文において筆者は、「知の在り方」を・・・と考えている。したがって、私は・・・だと思う。」

必ずしも、上記通りにする必要はありませんが、採点のポイントにはなっていると考えてもよいでしょう。

総括

私は最近常々、「現代文(国語)の教え方は、(マニュアルにはなく)その人の中にある」と考えています。

ですから、上記の問題をどう学習に生かすのか、あるいはどうアレンジしていくのか、ということは教師と生徒と、また状況によるのかなぁと思っています。

ただ、私の授業の様子や考え方を知っていただく機会として、このような執筆は続けていこうと思います。