1 国語力について
国語はよく「学習法がわからない」とされます。
確かに、数学や英語と比べると学ぶ対象が自分自身の使っている「言語(母国語)」ですから、身近であるだけにどう学んで、力を伸ばすのかがわかりづらいのも確かです。
しかし、その一方で国語の力を身に着けることには大きな意義もあります。
それは、母国語による情報収集や情報整理、学習がより効率的になる、ということです。
例えば、学生で言えば教科書や参考書に書いてあることから、「重要なこと」と「それほど重要ではないこと」を見分けて、緩急をつけて読んで学ぶことができます。
国語力が十分ではない人によくありがちなのは、「書いてあることの一言一句すべて重要だから、どの部分も全力で読む」ということですが、それではすぐに気力や体力を使い切ってしまい、また頭の中も整理されていない状態になるでしょう。
そもそも文章読解のコツというのは、「いかに楽をして読むか」ということにあると思っており、誤解を恐れずに言えば「いかに読まないで済ますか」ということにあるとすらいえます。
2 国語力をつけるには
国語学習において重要なことは「再現性」であり、ある文章を読んで学んだことが、別の文章読むときに活用できる、ということを大切にするべきです。
なぜなら、国語において同じ文章が出るのは、学校の定期テストくらいであり、入試やその他の試験においては、未知の文章が出題されるからです。
また、定期テストにおいても確かに同じ文章は出るかもしれませんが、ワークとまったく同一の問題が出る、とも限らないため、やはり応用力が必要になります。
このように「再現性」を大事にして国語を学ぶときに必要なのは、「形式」です。
およそ、読者に伝わることが想定されている文章には、すべて伝えるための形式が備わっています。
具体的には次の4つの形式が重要です。
1つ目は、「対比構造」です。
私は「比べる文章」という言い方もしますが、要するにAとBという2つの性質の異なるものが比較され、筆者にとって主張したいAの特徴をBとの比較の中からはっきりさせていく、というものです。多くの説明文や、物語文・小説・随筆でも多用されるテクニックです。
2つ目は、「具体化と抽象化(一般化)」です。
「例えば?」に相当する具体例と、「要するに?」に相当する抽象化(一般化)に注目してください。
確かに具体例のほうが話は分かりやすく具体的でとっつきやすいのですが、文章読解や記述解答作成において重要なのは、抽象化(一般化)している記述のほうです。
凡そ文章というものは、具体化と抽象化を繰り返しています。
具体の度合いと、抽象の度合いが文章の中で変化している、といってもよいでしょう。
これを見抜くことが、読み手にとって重要な、楽をするためのスキルです。
3つ目は、「類比構造」です。
これは、要するに2つのものを持ち出して、共通点を見つけるということです。
しばしば、類比で用いられるものは、AとBとの共通点が分かりづらい場合が多いので、筆者がこの共通点をできるだけわかりやすく説明しようとします。
ここで重要なのは、類比においてはAとBは全くのイコールの関係ではない、ということです。
あくまで、共通点としてはこのようなものが挙げられる、と筆者が提示しているだけであり、当然違いもありますが、今回は共通点に注目して話をしている、ということには注目するべきです。
4つ目は、「主語・目的語・述語」です。
これらについて「すでに知っている」という方が大半でしょうが、しかし長い一文になってくると、どれが主語であり、どれが目的語であり、どれが述語になるのか、ということが曖昧である人も結構いらっしゃいます。
また、一文の中には、主語・目的語・述語(これらを文の骨格といいます)のいずれにも当たらない、修飾語が挟まっている場合がほとんどであり、これらを正しく仕訳けて、文法のルールのもとに一文を正しく理解することは、実は結構大変な作業です。
文法と読解は、セットであるべきだと私は考えます。
そのため「筆者が言っていることがわからない」という場合には、文法に立ち返って考えると、理解が進むこともあります。
3 国語と読書
国語と読書の関係、つまり読書をすると国語ができるようになる、ということについては、様々な意見があります。
例えば、「受験や学校のテスト対策と、読書はカテゴリーが違うから違う訓練が必要だ」という人もいれば、「読書をして文章になれることが、国語力の底上げにつながる」という人もいます。
結論として、私はどちらも正しいと思いますが、これについては注釈が必要です。
上記2「国語力をつけるには」で述べましたが、国語の読解・記述のためには、形式を学ぶことがとても重要です。
その形式とは、上記で述べた「対比構造」「具体化と抽象化(一般化)」「類比構造」「主語・目的語・述語」です。
しかし、これらとはまた別のカテゴリーにおいて、「語彙(言葉の知識)」を入れておくことも、同じくらい(またはそれ以上に)重要です。
語彙はその言語の豊かさに触れることでもあり、語彙力が豊かであれば国語の文章読解や記述においても、自分の言葉で言い換えて理解し表現できるため、とても有利になります。
ただし、語彙力を一朝一夕に身に着けることは、残念ながらできません。
それくらい、ある言語における語彙というものは膨大なのです。
ただし、英語など他の言語と違い、母国語としての日本語の深さに触れる機会は多くあります。
その一つが「読書」というわけです。
別に学生が、堅苦しい本をたくさん読む必要は必ずしもないとは思いますが、古今東西の文学作品や、新書、興味を感じる分野のやや専門的な本、あるいは活字が苦手ならば漫画作品でも構いませんから、とにかく日本語という一つの言語の世界に浸ることは必要なのではないかと思います。
英語もそうですが、ある程度の文法や構文、論理的な知識が備わってきたら、あとは語彙力勝負になります。
これらは短期間で身につくものではありませんが、それだけに一度見に着ければ、それだけ長期間自分の人生の可能性を広げてくれることでしょう。
4 国語の参考書・問題集と具体例
国語の参考書や問題集は、最近かなり充実してきています。
しかし、学ぶ人の現状や用途に応じて選ぶことが重要です。
私が国語系の参考書や問題集選びで重視しているのは、「解説や語彙の説明の詳しさ」です。
その意味で私がとりわけ素晴らしいと思っている書籍を何冊か挙げます。
『国語長文 難関徹底攻略30選』(東京学参)→少し余裕のある中学生向け
結構前から継続して使わせていただいている問題集です。
各設問の解説、語彙の解説がとても詳しく、ある程度以上のレベルの中学生・高校生が読み・書きのトレーニングをするうえでは、最適の教材だと考えます。
また、素材文もどれも厳選された素晴らしいものばかりであり、問題を解かずに、ただ読むだけでもかなり充実した時間が過ごせるでしょう。
『京大入試詳解25年 現代文』(駿台文庫)→余裕のある高校生向け
京都大学の過去問とその解説集です。
確かに、京都大学の現代文は日本一と言ってよい難易度を誇り、課題文も問題文も考えに考え抜かれた非常に精緻なものです。
しかし、そういう文章だからこそ(余裕のある生徒さんには)読んでほしいと思っています。
また、本文以上の分厚さの解答解説集には、駿台予備校の先生方のこれまた考えに考え抜かれた精妙な解説が載っています。
これを熟読し、まねて実践することにより、ほかでは得られがたい堅牢な国語力が身につくでしょう。
ただし、難易度が高いのは事実なので、可能であれば国語の先生(家庭教師や塾の先生)と一緒にやるのがお勧めです。
『田代式 中学受験 国語の「神技」』(講談社、田代敬貴 著)→中学受験向け
中学受験において重要な、読みと書きの力を具体的な問題や答案例をもとに、解説していくという本です。
どちらかといえば、受験生自身というよりも、その保護者や指導者を対象としているようにも見えます。
例えば、滑り台の説明文を読んでその説明通りの滑り台の絵を描かせる問題や、『赤とんぼ』の情景を正しく理解しているか問う問題、あるいは文章を読んで自分ならどういう手紙を書くか、という問題など、様々なジャンルに幅広く対応しています。
こちらの田代先生の本では、その問題をどのように解くか、ということに加えて、それができるようにどう教えたらよいか、ということにも触れられており、大変示唆に富んでいます。
上記以外にも、様々な国語系の参考書や問題集があり、私はできるだけ多くの教材を実際に仕入れて使ってみたり、生徒さんに試してみたり、することを通じて教材に関するノウハウを蓄積してきました。