連載第8回では「数学②(後編)」として、AI時代に数学で何を身につけるのか(計算そのものより、整理・モデル化・検証の力)を扱いました。
第9回は英語です。テーマはシンプルに、でも切実に――
「翻訳アプリやChatGPTがあるのに、英語を勉強する意味ってあるの?」という疑問に答えます。
今回の記事の要点
- AI翻訳が進んでも、英語は「訳す力」以上に世界へのアクセス権(一次情報・人・機会)になる
- 英語は「スキル」でもあるが、同時に思考の枠組み(ものの言い方・切り分け方)を増やす
- 利己(自分の選択肢)/公共性(摩擦を減らす)/国民意識(日本語・文化の理解)の3視点で整理すると腹落ちしやすい
- AI時代こそ「英語ができる=AIの出力を検証できる」になり、誤訳・ニュアンス違いに気づける
- 結論:英語は「不要」ではなく、持っているほど自由が増える教養になった
※本稿は「AI時代の学習の意義」連載の第9回です(目次:https://katekyo-shirai.com/ai25/)。
はじめに:AI時代に英語を学ぶ意味
よくある疑問
「英語の勉強って、翻訳アプリやChatGPTがある時代に意味あるの?
いまから一生懸命やる価値ってあるの?」
たしかに、昔よりも「英文を読む・訳す」作業だけならAIが手伝ってくれるようになりました。
だからこそ、英語学習の価値は“翻訳作業”から、もっと根っこの部分へ移っています。
ここでは、英語を学ぶ意義を「点数のため」だけに閉じず、人生の選択肢として整理してみます。
今回の方針:利己/公共性/国民意識の3視点で整理します
連載の前半で使った枠組み(利己・公共性・国民意識)を、英語にも当てはめます。
この3つは優劣ではなく、同時に成り立つものです。
- 利己:自分の可能性・進路・情報収集の自由が増える
- 公共性:異文化コミュニケーションが円滑になり、摩擦を減らせる
- 国民意識:日本語・日本文化を相対化して理解し、外に向けて語れる
「英語=将来使うかどうか」だけで考えると、どうしても話が狭くなります。
逆に言えば、“使う/使わない”以前の価値が見えると、英語の位置づけがぐっとクリアになります。
① 利己の観点:英語は「世界へのアクセス権」になる
学術の世界でも英語力は重要
大学以上の学術領域では、英語は今もなお標準言語です。
研究成果・論文・国際学会など、最新の知見が英語で流通している場面は多いです。
ネット情報・ビジネス情報へのアクセス
ネット上の情報は英語圏が圧倒的に多く、英語で調べるだけで「見える景色」が変わります。
同じテーマでも、日本語だと「二次情報・まとめ」中心、英語だと「一次情報・原典」に近づけることがあります。
国際的なキャリアの選択肢
大げさに聞こえるかもしれませんが、英語ができると“選べる仕事の母数”が増えます。
それは海外で働く/働かない以前に、国内でも「海外相手の仕事」「国際案件」「外資や研究職」などで差が出ます。
AI時代の英語は「検証能力」になる
AI翻訳は便利ですが、誤訳・省略・トーンのズレがゼロになるわけではありません。
英語力があるほど、AIの出力を「そのまま信じる」から「チェックして使う」に変えられます。
具体例(ありがち)
- 海外サイトの注意事項を、AIがやわらかく訳してしまい「禁止」が「推奨」に見える
- “should” を「〜した方がよい」なのに「〜すべき」と強く訳してしまう
- 契約・規約の表現を、AIが一般向けに丸めてしまい重要な条件が薄れる
② 公共性の観点:異文化コミュニケーションが摩擦を減らす
英語は「話せたらかっこいい」以上に、相手の前提を知るための道具です。
異文化の人と関わると、同じ言葉でも背景が違い、誤解が生まれやすい。そこで必要になるのが、
“丁寧に確かめる姿勢”です。
異文化コミュニケーションの促進
英語ができると、単に会話ができるだけでなく、相手の文化的背景や価値観の置き方にも目が向きます。
「自分の常識」が普遍ではないと気づけることは、公共性(みんなで生きる)にも直結します。
政治・経済・安全保障の理解を深める
国際ニュースは、同じ出来事でも国によって報じ方が変わります。
英語で複数ソースに触れられると、「一つの見方だけで決めつけない」訓練になります。
これはまさに、連載で繰り返し触れている「事実と意見を区別する」態度にもつながります。
③ 国民意識の観点:日本語・日本文化の理解が深まる
英語学習は「外に出るため」だけではありません。むしろ逆に、
英語を学ぶことで、日本語と日本文化が“見える”ようになる面があります。
日本語の特徴に気づける
たとえば日本語は、主語を省略しやすく、文脈で意味を補う言語です。
英語は主語や論理のつなぎが要求されやすい。だから英語で説明しようとすると、
「自分は何を言いたいのか」がはっきりしていないと進みません。
日本文化を外に向けて語れる
文化は「知っている」だけでは弱く、説明できると強くなります。
英語で日本の行事・地域の風習・歴史・文学を語れるようになると、国民意識(開かれた帰属意識)にもつながります。
ポイント
国民意識とは、排他的なナショナリズムではなく、「自分の共同体を理解し、そのうえで他者にも開かれる」姿勢でした。
英語はその“開かれ方”を支える教養になりえます。
総括:英語はただのツールにあらず
ここまで見てきた通り、英語は「翻訳できればOK」ではありません。
英語は、世界の情報・人・文化へ近づくための教養であり、同時に、
自分の言葉(日本語)を磨く鏡でもあります。
AIがあるからこそ、英語学習は「不要」ではなく、
“AIを使いこなすための土台”として価値が増した――私はそう考えています。
次回予告:最終回(総括)— 「AI時代の学習の意義」を一枚にまとめる
次でこの連載は総括(最終回)です。ここまでの全体像を整理し、
「結局、AI時代に何を学べばいいのか?」を、できるだけ分かりやすくまとめ直します。
次回のキーワード
- 利己/公共性/国民意識の「つなぎ直し」
- 科目別の要点まとめ(短く、でも実践に落ちる形で)
- AIと人間の役割分担:学びの設計者は誰か
- 家庭教師・1対1だからできること(学校との両立)
付録:ご家庭向けガイド
🧒 小学生の方向け(物語・3〜4年生)
ある日、ゆうとくんはタブレットで英語の歌を聞いていました。
でも、歌詞の意味はよくわかりません。
そこで、お母さんといっしょに「ここ、何て言ってると思う?」と当てっこをしました。
わかった言葉が一つ増えるたびに、歌がちょっとだけ近くなりました。
それから、ゆうとくんは気づきました。
「英語って、“知らない世界に手をのばす鍵”みたいだね」。
👦 中学生の方向け(説明文・中2〜3)
英語学習の意義は、翻訳ができることだけではありません。
英語で情報を集められると一次情報に近づき、選択肢が増えます。
また、異文化の人と話す経験は、価値観の違いを理解し、摩擦を減らす公共性にもつながります。
さらに英語で説明しようとすると、日本語の曖昧さや論理のつなぎ方に気づき、自分の表現も磨かれます。
AIがある時代だからこそ、英語は「AIの出力を検証し、使いこなす土台」になりえます。
👪 保護者の方向けヒント
- 「英語=テスト」だけにしない:好きな海外動画や歌の一節を、週1で“意味当てゲーム”にする(短くてOK)。
- AI翻訳を一緒に検証:AIの訳をそのまま信じず「この言い方、変じゃない?」を親子で話す(検証の習慣)。
- 日本のことを英語で一文:「好きな食べ物」「地元の良いところ」を英語で1文だけ作る(表現の型が増える)。
- ニュースを2視点で:同じ話題を日本語と英語で見比べ、“報じ方の違い”を一言メモ(公共性の練習)。