学習コラム|自己説明とノートの使い方

「解けた」を「説明できる」に変える――数学Ⅲ・Cの自習ノートから考える学習法

難しい問題の解説を読んで、「なるほど、分かった」と思った。 ところが翌日、同じ問題を前にすると、どこから手をつければよいか分からない。 このような経験は、数学に限らず、多くの人にあるのではないでしょうか。

この記事でお伝えしたいこと

  • 解説を読んで理解することと、自分で考え方を再現できることは同じではありません。
  • 参考書を閉じて、解法の理由を自分の言葉で説明すると、「分かったつもり」を発見できます。
  • この学習法は、教育心理学では主に「自己説明」「想起練習」「メタ認知」などと関係します。
  • すべての問題で長い文章を書く必要はなく、難問や間違えた問題に絞るのが現実的です。
  • 数学だけでなく、国語・英語・理科・社会にも応用できます。
数学Ⅲ・Cの数列の極限について、解法の考え方を自分の言葉で整理した手書きノート
数学Ⅲ・C「数列の極限」の問題について、計算だけでなく、 解法を選んだ理由や全体の流れを自分の言葉で整理した自習ノートです。

私も、数学Ⅲ・Cを学び直しています

私は現在、将来、理系数学を必要とする生徒さんを担当する場合に備えて、 数学Ⅲ・Cを改めて学んでいます。

問題を解くことはもちろんですが、難しい問題や、 解法の発想が重要だと感じた問題については、 解説を読んだ後に、もう一つ作業を加えています。

参考書や問題集をいったん閉じて、 「なぜ、その解き方を使うのか」を自分の言葉で書いてみる。

上の写真は、その一例です。 数学Ⅲ・Cの数列の極限について、チャート式の問題を学習した後、 解答そのものを書き写すのではなく、 自分が理解した「解法の流れ」をなるべく見ないで再現しました。

この記事は、数学Ⅲ・Cの問題そのものを解説することが目的ではありません。 数学を一つの題材として、 理解した内容を、どうすれば自分で使える知識に変えられるか を考えてみたいと思います。

解説を読んで「分かった」だけでは、再現できないことがある

模範解答や参考書の説明は、当然ながら筋道が整っています。 そのため、読んでいる間は、 自分もその流れを理解できているように感じます。

しかし、その状態では、 自分で考え方を作ったというよりも、 書かれている道筋に沿って歩いているだけ という場合があります。

参考書を閉じてみると、次のようなことが起こります。

  • 最初に何を考えればよいか思い出せない。
  • 途中の計算は分かるが、なぜその変形をするのか説明できない。
  • 前の設問をどこで利用するのか分からない。
  • 解答の順序が入れ替わってしまう。
  • 結論は覚えているが、そこへ至る根拠が抜けている。

ここで説明できなかったことは、失敗ではありません。 自分がまだ十分に理解できていない場所を発見した ということです。

今回のノートでは、何を書いたのか

今回扱ったのは、漸化式で定められた数列の極限に関する問題です。 一般項を直接求めることが難しいため、 数列の範囲を数学的帰納法で示し、 その後、極限値との差を不等式で評価していく問題でした。

ノートでは、完成した計算だけでなく、主に次の点を書いています。

  • 一般項を直接求める問題ではなく、まず数列の範囲を示す問題だと判断したこと。
  • 前の設問で証明した範囲を、次の設問でも利用すると考えたこと。
  • 平方根を含む差が出たため、共役な式を使った変形を考えたこと。
  • 不等式を作り、最終的には「はさみうちの原理」につなげること。
  • 左端と右端の極限を調べれば、中央の式の極限を示せること。

つまり、このノートで残そうとしたのは、 「この式をこう計算する」という操作だけではありません。

何を手掛かりにし、なぜその方法を選び、 どのように結論までつなげたのか。

この部分を言葉にしておけば、 数字や式の形が少し変わった問題でも、 同じ考え方を使える可能性が高くなります。

教育学的には「自己説明」と呼ばれる

このように、学んだ内容について、 「なぜそうなるのか」「この手順にはどのような意味があるのか」を 自分自身に説明する活動は、 教育心理学では一般に自己説明と呼ばれます。

自己説明では、単に「何をしたか」を言うだけではなく、 なぜ、それをしたのかを説明します。

数学の自己説明の例

  • なぜ、この公式を使うのか。
  • なぜ、ここで場合分けが必要なのか。
  • なぜ、前の設問の結果が使えるのか。
  • なぜ、この文字を未知数として置くのか。
  • なぜ、この変形をすると解きやすくなるのか。
  • この条件がなかったら、結論はどう変わるのか。

解法を暗記するだけの場合、 問題の見た目が変わると対応できなくなることがあります。 一方で、解法を選んだ理由まで説明できれば、 知識を別の問題にも応用しやすくなります。

参考書を閉じることは「想起練習」になる

今回は、なるべくチャート式を見ないで書くようにしました。 この「見ないで思い出す」という作業は、 想起練習または検索練習と呼ばれる学習法と関係します。

ここでいう「検索」は、インターネットで調べるという意味ではありません。 自分の記憶の中から、必要な情報を探して取り出すという意味です。

教材を読み返していると、 見覚えがあるために「覚えている」と感じやすくなります。 しかし、自分で取り出そうとすると、 本当に覚えているかどうかが明らかになります。

「読めば分かる」状態と、 「何も見ずに思い出せる」状態は違います。 テストや実際の問題解決で必要なのは、後者です。

自分の理解を点検する「メタ認知」

もう一つ関係するのが、メタ認知です。

メタ認知とは、簡単に言えば、 自分が何を理解し、何を理解していないかを把握すること です。

今回のようなノートを書くと、次のことが見えやすくなります。

  • 自力で思いつけた部分。
  • 解説を見て初めて分かった部分。
  • 計算はできるが、理由を説明できない部分。
  • 途中の論理が飛んでいた部分。
  • 次に似た問題が出たときの手掛かり。

勉強が上手な人とは、 必ずしも、すべてを一度ですぐ理解できる人ではありません。

自分の理解不足を見つけ、 そこへ戻って修正できる人も、 学び方が上手な人だと私は考えています。

この方法によって期待できる五つの効果

1.「分かったつもり」を発見できる

解説を読んで納得することと、 自分で説明を再現できることの間には、差があります。

教材を閉じて説明することで、 その差が目に見えるようになります。

2.知識同士のつながりが見える

今回の問題では、数学的帰納法、不等式、式の変形、 等比数列、はさみうちの原理など、 複数の知識が一つの流れの中で使われています。

自己説明をすると、 これらが別々の知識ではなく、 「どの段階で、何のために使われたか」という形でつながります。

3.似た問題に応用しやすくなる

数字や途中式を覚えるのではなく、 次のような構造を学ぶことができます。

一般項を直接求めにくい

まず数列の範囲を示す

極限値との差を考える

誤差を不等式で評価する

はさみうちの原理につなげる

このように問題の骨格を取り出しておけば、 別の問題を見たときにも、 「以前の問題と同じ構造ではないか」と考えやすくなります。

4.記憶に残りやすくなる

教材を見るだけでなく、 頭の中から情報を取り出し、 自分の言葉で組み直すため、 後から思い出すための手掛かりが増えます。

5.人に説明する力がつく

教える側にとっても、これは重要です。

問題を解ける人は、つい 「ここで有理化します」 「ここでこの公式を使います」 とだけ説明してしまうことがあります。

しかし、生徒さんが本当に知りたいのは、 なぜ、そこでその方法を思いつくのかです。

自分が解法を理解した過程を言語化しておくことは、 生徒さんに説明するときにも役立ちます。

実際に行うときの手順

私が今回行った方法を一般化すると、 次のような流れになります。

  1. まずは自力で考える。
    すぐに解説を見ず、何が使えそうかを考えます。
  2. 分からなければ、解説を読む。
    計算だけでなく、方針や着眼点を確認します。
  3. 「なぜ」を意識して理解する。
    なぜこの公式なのか、なぜこの順序なのかを考えます。
  4. 教材をいったん閉じる。
    見ながら書き写すのではなく、記憶から取り出します。
  5. 解法の流れを自分の言葉で書く。
    完成した答案だけでなく、判断の理由を書きます。
  6. もう一度、解説と照らし合わせる。
    抜け、誤解、順序の違いを修正します。
  7. 数日後、もう一度自力で解く。
    ノートを書いたこと自体で満足せず、再現できるか確認します。

問題を解いた後に使える「五つの質問」

毎回長い文章を書く必要はありません。 次の五つの質問に短く答えるだけでも、 振り返りになります。

  1. この問題で、最初に気づくべきことは何か。
  2. なぜ、この公式や解法を使ったのか。
  3. 問題の条件や前の設問を、どこで使ったか。
  4. 自分が途中で分からなくなったのは、どこか。
  5. 次に似た問題が出たら、何を手掛かりにするか。

小学生や中学生の場合は、さらに簡単にしてもよいでしょう。

  • 何を求める問題だった?
  • 最初に何をした?
  • どうして、その方法を使った?
  • どこが難しかった?
  • 次に同じような問題が出たら解けそう?

数学以外の教科にも使える

自己説明は、数学だけの学習法ではありません。 各教科で、次のように使うことができます。

教科 自己説明の例
国語 なぜ、この一文が答えの根拠になるのか。
なぜ、この接続語から対比だと分かるのか。
どの部分を残して要約したのか。
英語 なぜ、この語順になるのか。
なぜ、この時制や助動詞を使うのか。
主語・動詞・修飾語をどう見分けたのか。
理科 なぜ、この公式を使うのか。
どの条件が変わると、結果が変わるのか。
実験結果から何が言えるのか。
社会 なぜ、この出来事が起きたのか。
前後の出来事と、どうつながるのか。
制度が社会にどのような影響を与えたのか。

どの教科でも共通するのは、 答えだけでなく、答えに至った理由を説明する ということです。

すべての問題で、長いノートを書く必要はない

この方法には時間がかかります。 すべての基本問題について長い説明を書いていたら、 問題演習の量が不足してしまうこともあります。

そのため、私は対象を絞るのがよいと考えています。

  • 自力では解けなかった問題。
  • 解説を読んでも、すぐには納得できなかった問題。
  • 解法の発想が重要な問題。
  • 複数の知識を組み合わせる問題。
  • 同じ間違いを繰り返している問題。
  • 後で誰かに説明したい問題。

基本問題と難問では、学習の役割を分ける

基本問題では、反復によって手順を安定させる。
難問や重要問題では、自己説明によって理解を深める。
この二つを使い分けることが大切です。

また、ノートをきれいに仕上げること自体が目的にならないように、 注意する必要もあります。

大切なのは、色や装飾ではなく、 後から見た自分が、 考え方をもう一度再現できるかです。

ノートそのものについては、 ノートは未来の自分に宛てて書くもの|私のノートの取り方 でも詳しく書いています。

「構造・再現性・規律」と自己説明

家庭教師の白井では、学習について考えるとき、 構造・再現性・規律という三つの言葉を重視しています。

構造:問題全体のつながりを見る

個々の計算だけを見るのではなく、 最初の条件から結論まで、 どのようにつながっているかを把握します。

再現性:次も同じ考え方を使えるようにする

たまたま一度解けただけで終わらず、 次に似た問題が出たときにも使える形に整理します。

規律:教材を閉じ、自分で確かめる

解説を読んで安心するだけでなく、 一度教材を閉じて、自分で説明してみる。 少し面倒でも、この確認を行うことが、 理解を自分のものにするための規律になります。

答えを覚えるのではなく、 考え方を再現できる形にする。

教える側も、学び続ける側である

家庭教師は、生徒さんに勉強を教える立場です。 しかし、教える側がすべてを完成された形で知っているわけではありません。

私自身が新しい内容や難しい内容を学び、 どこで迷い、何を手掛かりに理解したのかを振り返ることは、 生徒さんが感じる難しさを考えるうえでも役立ちます。

授業でも、私が一方的に解き方を説明するだけでなく、 次のように問いかけることがあります。

  • なぜ、この方法を使ったと思う?
  • この条件は、どこで使った?
  • 今の説明を、自分の言葉で言える?
  • 次に似た問題が出たら、何を見ればよい?

これは、生徒さんを困らせるためではありません。 教師の説明を、生徒さん自身が使える知識に変えるためです。

授業の中で、 インプット、ノート整理、想起、説明、問題演習を どのようにつなげるかについては、 次の記事でも整理しています。

家庭教師・個別指導で成績が伸びる授業時間の使い方

まとめ:「解けた」を「説明できる」に変える

学習には、いくつかの段階があります。

解答を読めば分かる

自分で解ける

なぜ、その解法を使うのか説明できる

「説明できる」段階まで進むことで、 知識は、その問題だけで通用する答えではなく、 次の問題でも使える道具に近づきます。

もちろん、すべての問題について、 詳しい文章を書く必要はありません。 まずは、間違えた問題や、 解説を読んでも腑に落ちなかった問題を一つ選び、 次の問いに答えてみてください。

「この問題は、なぜこの解き方になるのだろう?」

その問いに自分の言葉で答えようとすることが、 「分かったつもり」から一歩抜け出すきっかけになると思います。

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