今回は、国語長文教材に収録されている太宰治「畜犬談」を使った授業ノートをもとに、 小説文の読み方・記述答案の作り方を整理します。
「畜犬談」は、犬を恐れ、嫌っている語り手が、ポチという犬との関わりの中で、 自分の感情や身勝手さに向き合っていく作品です。 表面だけ読むと「犬が嫌いな人の話」に見えますが、 国語の読解として大切なのは、単に内容を追うことではありません。
大事なのは、 本文のどこを使うか、 その根拠をどのような型でまとめるか、 そして自分の答案を解答と比べて修正できる形にすることです。
この記事は、実際の授業ノートをもとにしています。
もくじ
Toggle1 まず「何の話か」を一言で押さえる
小説文では、最初から細部を追いすぎると、本文の中で迷子になりやすくなります。 そこで授業では、まず作品全体を次のように大きくつかみました。
犬を恐れ、嫌っていた「私」が、ポチとの関わりを通して、 単純な嫌悪だけでは説明できない気持ちへ変化していく話。
ここで注意したいのは、「犬嫌いが犬好きになった話」と単純化しすぎないことです。 語り手は、ポチを最初から素直に受け入れているわけではありません。 むしろ、恐怖、嫌悪、迷惑さ、責任転嫁、罪悪感のような感情が入り混じっています。
だからこそ、この文章では 気持ちそのものだけでなく、 気持ちの変化を読む必要があります。 国語の小説文では、「楽しい」「悲しい」「怖い」といった一語の感情で終わらせず、 その感情がどこから来て、どのように変化したのかを押さえることが大切です。
家庭教師の白井の国語指導全体については、 国語・現代文カリキュラム でも詳しく整理しています。
2 心情変化は「はじめ・きっかけ・あと」で整理する
今回の授業ノートでは、語り手の心情変化を次の三段階で整理しました。
① はじめ
ポチに対して、恐怖・嫌悪・迷惑さなど、さまざまな負の感情を持っている。
② きっかけ
ポチの存在や行動によって、自分の感情が揺さぶられる。 また、ポチの死を想像することで、単純な嫌悪とは違う感情も生まれてくる。
③ あと
ポチを完全に好きになったというより、 ポチを許し、共に生きていこうとする方向へ気持ちが動いていく。
物語文の記述問題では、この三段階がよく問われます。 「このときの気持ちを説明しなさい」と聞かれたとき、 その場面だけを見て答えると、答案が浅くなりがちです。
その前にどのような気持ちがあり、 何をきっかけに変化し、 その結果どのような気持ちになったのか。 この流れを押さえることで、答案に筋道が生まれます。
3 国語でも「仮説」が重要である
今回の授業で特に大切にしたいのが、国語における仮説です。 国語というと、「本文を読んで、なんとなく答える教科」と思われがちですが、 それでは点数が安定しません。
ここでいう仮説とは、難しいものではありません。 国語における仮説とは、主に次の二つです。
国語における仮説
- 本文のどの箇所を使うか
- その箇所を、どの型に当てはめてまとめるか
たとえば「語り手の気持ちを説明しなさい」という問題があったとします。 そのとき、まず「この部分とこの部分を使えばよさそうだ」と考える。 これが一つ目の仮説です。
次に、「これは理由を説明する問題なのか」「心情変化を説明する問題なのか」 「対比を使ってまとめるべき問題なのか」と考える。 これが二つ目の仮説です。
もちろん、その仮説が最初から正しいとは限りません。 しかし、仮説が間違っていても、まったく問題ありません。 むしろ、仮説を立てるからこそ、解答と見比べたときに どこがズレたのかが分かります。
仮説を立てる意義は、正解を一発で当てることではありません。
自分の答案と模範解答の差を見て、成長できる余地を作ることにあります。
仮説なしにフィーリングで解いてしまうと、 たまたま当たることはあっても、なぜ正解したのかが分かりません。 逆に間違えたときも、どこを直せばよいか分かりません。
その結果、点数が安定しにくくなります。 国語で安定して点を取るには、 本文の根拠を選ぶ仮説と、 答案の型を選ぶ仮説を持って解くことが重要です。
この考え方は、 国語と再現性 の記事で書いている「感覚科目を、再現できる作業に変える」という考え方ともつながります。
4 対比の型:「AなのにB」を見つける
「畜犬談」を読むうえで、もう一つ重要なのが対比です。 授業ノートでは、次のような型で整理しました。
Aなのに、B。
Aにもかかわらず、B。
Aである一方で、B。
「畜犬談」でいえば、Aには 「犬が怖い」「ポチを嫌っている」「ポチを迷惑に思っている」 といった内容が入ります。
一方でBには、 「それでもポチのことを考えてしまう」 「ポチの死を想像して気持ちが揺れる」 「最後にはポチと共に生きていこうとする」 といった内容が入ります。
つまり、この文章の読み取りでは、 「ポチが嫌い」だけでも足りません。 「ポチがかわいそう」だけでも足りません。 マイナスの感情があるにもかかわらず、受け入れる方向へ動く という複雑さを読む必要があります。
5 対比を見つけたら、答案も対比の型で作る
記述答案では、本文中に対比する要素が見つかったら、 その対比をそのまま答案の形に活かすと、非常に書きやすくなります。
たとえば、次のような形です。
ポチに対して恐怖や嫌悪感を抱いていたが、 その一方で、ポチの死を想像するうちに、 自分の身勝手さやポチの存在の大きさに気づき、 共に生きていこうとする気持ち。
このように書くと、 「前半の気持ち」と「後半の気持ち」が視覚的にも分かりやすくなります。 採点者から見ても、答案の骨組みがはっきりします。
記述答案でよくある失敗は、本文の材料をただ並べてしまうことです。 材料を並べるだけでは、結局何を説明したいのかがぼやけます。 しかし、対比の型を使うと、 何と何が違うのか、 どこで気持ちが変化したのかが明確になります。
対比が見つかったら、答案では
「Aではあるが、B」
「Aと思っていた一方で、B」
「Aにもかかわらず、B」
の形を考える。
これは、小説文だけでなく、評論文でも使えます。 筆者の主張を説明するときも、 「一般にはAと考えられているが、筆者はBと考えている」 という形で整理できることが多いです。
対比を見つける練習については、 国語学習でのマーカー活用 のように、本文に線を引きながら整理する方法も有効です。
6 「全てをポチのせいにする」をどう読むか
授業ノートの中で大きく扱ったのが、 語り手が悪いことの責任をポチになすりつけるような読み取りです。
ここは、単に「ポチが悪い」と読むところではありません。 むしろ、語り手の側にある 責任転嫁・身勝手さ・感情の不安定さを読む場面です。
本文に「ポチのせいにする」材料がある場合、そこから考えるべきことは、
ポチの性格ではなく、語り手の心の動きです。
ここでも仮説が必要です。 「この部分はポチの説明なのか」 「それとも語り手の身勝手さを示しているのか」 という仮説を立てることで、読み取りの方向が定まります。
国語では、本文の言葉を見つけるだけでは不十分です。 その言葉が、 人物の性格を示すのか、 心情の理由を示すのか、 心情変化のきっかけを示すのかを考える必要があります。
7 記述答案は「材料」と「型」を分ける
記述問題では、次の三つを分けて考えると、答案が安定しやすくなります。
本文の材料……本文にはこう書いてある。
答案の型……その材料を、どう組み合わせるか。
自分の答案……設問に合う形で、一文にまとめる。
国語が苦手な生徒さんは、本文の材料を見つけたあと、 それをそのまま長く書いてしまうことがあります。 しかし、記述答案では、材料を並べるだけでは足りません。
理由を聞かれているなら、理由の型で書く。 心情を聞かれているなら、心情の型で書く。 変化を聞かれているなら、「前はAだったが、きっかけによってBになった」という型で書く。 対比があるなら、「Aである一方でB」という型で書く。
このように、本文の材料と答案の型を分けて考えることが、 記述問題を「なんとなく」から「再現できる作業」に変える第一歩です。
問題文の条件をどう読むかについては、 国語の問題文の読み方 も参考になります。
8 マーカーと図式化で、仮説を見える形にする
今回の授業ノートでも、赤や青で線を引きながら、 「はじめ」「きっかけ」「あと」、 「プラス」「マイナス」、 「対比する要素」を整理しました。
マーカーを使うときは、ただ色をつけるのではなく、 自分の仮説を見える形にすることが大切です。
- 心情語に線を引く
- 心情の理由になる部分を囲む
- 対比になる言葉を見つける
- 変化のきっかけになる出来事を押さえる
- 記述に使う本文の材料を固定する
つまり、マーカーは「きれいに読むための道具」ではありません。 自分はここを根拠にするつもりだという仮説を残す道具です。
あとで解答と見比べたときに、 「使う場所は合っていたが、まとめ方が違った」 「まとめ方は近かったが、根拠にする場所が足りなかった」 というように振り返ることができます。
9 まとめ:国語は、仮説を立てて直す教科である
「畜犬談」のような小説文では、登場人物の気持ちを一語で決めつけないことが大切です。 怖い、嫌い、迷惑だ、悪いことをポチのせいにしたい、けれども見捨てきれない。 そうした複雑な感情が、場面ごとに重なりながら変化していきます。
だからこそ、授業では次の三つを重視しています。
- 本文のどこを根拠にするか、仮説を立てる
- その根拠を、心情・理由・対比・変化などの型に当てはめる
- 自分の答案を解答と比べて、次の読み方に活かす
仮説が間違っていても、それは失敗ではありません。 むしろ、仮説があるからこそ、修正できます。 反対に、仮説なしにフィーリングだけで解いてしまうと、 正解しても不正解でも、次に何を改善すればよいかが見えにくくなります。
国語は、感覚だけで解く教科ではありません。 本文を丁寧に読み、根拠を固定し、型に合わせて答案を作り、 その答案を見直すことで、少しずつ安定していきます。
家庭教師の白井では、国語を「なんとなく読む」から、 根拠をもって説明できる読解へ変えていくことを大切にしています。 国語指導の全体像は 国語の記事まとめ や 国語・現代文カリキュラム もあわせてご覧ください。
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